富永の方(2)

松平長親の娘、富永忠安夫人の富永の方が、マツガニ、わかめ、えびす、むらさき、キクヒコ。

「紫川」
(福岡県北九州市の昔話)
北九州の小倉の南と北あたりにある紫川は、昔はきく川といっていました。
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むかしむかし、きく川のほとりに浅茅野という漁師の部落があり、その部落にマツガニと言う貧しい漁師が妻のわかめと旅人のえびすと言う男の3人で、幸せに暮らしていました。ところがあられ混じりの妙にそこびえのする冬の夜のことでした。
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「海賊だ。」
「玄界灘の海賊だ。」
「火事だー。」
「部落は火の海だ。」
家は燃えて、船も焼かれてしまい、親は子失い、子は死んだ親のそばで泣きわめく、恐ろしい一夜となりました。
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マツガニはえびすと一緒にわかめを探しましたが、わかめは美しい女でしたから玄界灘の海賊たちに連れていかれてしまいました。端を知ったマツガニには大変力を落とし、仕事をするにも船はなく、毎日しょんぼりしていました。
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旅人のえびすは気の毒に思い、ある日、マツガニにこんなことをいいました。
「マツガニ殿、海賊に荒らされたこの浅茅野を昔の姿に返すため、私はこの川上に住むキクヒコを頼って行ってみようと思います。」
「キクヒコだと、このきく川の上の流れに住むキクヒコだな。悪い事は言わない、えびす殿、それだけはやめさせなければ、その他は旅の者ゆえ、キクヒコの怖さを知らない、それにこのきく川の川上の山のおきても知らない。それにまたキクヒコの一族ほど他国者を嫌うものはない。殺されるがおちじゃ。やめなされ、えびす殿。」
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しかし、えびすの心は決まっていました。えびすは心配するマツガニを後にして、きく川にそい険しい山路をたどって行きました。カズラの枝に着物は破れ、何日も何日も山また山を分けて進んでいきました。やっとキラキラ光る川上の水面を見つけると、プーンと春菜の香りが漂ってきました。
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「おー、きくの里だ。あそこに菊里の煙が立ち上っている。」
しかし、山の日暮れは早い。
今夜は山の中で過ごし、明け朝早くきくの里へと考えたえびすは、とあるタブの木陰で火を炊き、そのそばで休むことにしました。
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するとそこに一人の品の良い娘が、ともの女を連れて山路を下って参りました。 
「あなたはどちらへ行かれます。」
えびすを見つけた女は、声をかけました。
私はこの川下の里、浅茅野に住むえびすというもの、実は去年の暮れ、玄界灘の海賊たちに里は荒らされ、今出ては誰ひとりとして旅に出ることもできない。それで、このきくの里には船に良い水がある。この里のキクヒコ殿に合わないと思い、こうしてやって参りました。」
「何、兄に会うためか。すると、あなたは。キクヒコの妹、むらさきと申します。えびす様、兄にお会いになるのは、今しばらくお待ちください。」
「しかし、一刻も事は急ぐ。」
「でも今あえば、山のおきてで、あなたは殺されます。私にお任せください。それまであなたはこの山里にある私の庵にて待ってください。きっと私がうまく取りはからってあげましょう。」
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しかしいつまでたっても、えびすをキクヒコに会えません。3日、4日、えびすは山の庵で、むらさきから良い知らせを待っていました。
さて一方、キクヒコはむらさきのえびすのための言葉など、全然、笑って問題にいたしません。かわいい妹ではありますが、山のおきては守らなければなりません。けれどもむらさきは、毎日、熱心に聞く人に頼みました。
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命がけの頼みとしてさすがのキクヒコもしまいには折れて、1つの条件を出しました。
「では、そなたの言うことを聞こう、何かひとつの条件がある、よいか、この1月の間にめでたい鯛を100匹を持参すれば、そのえびすの願いごとを聞いてやろう。1月のうちは鯛は100匹だ。」
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その夜のこと。
山の庵では、えびすとむらさきが、何やら話し合いました。
「しかし、むらさき殿、鯛の100匹は無理でしょう。それにこの山路の旅はいきかえりに1月はゆうにかかります。帰ったところで船もない。」
「えびす様。てはずは、私が整えてきました。この山の南の下に筏を作らせ、川面に浮かびます。この川を下れば3日とかかりませぬ、早速の支度を。」
えびすは、むらさきの心づくしをしみじみと嬉しく思いました。
「何から何までかたじけない。」
「えびす様。私も明日から紫に染む藍染の木の実を毎日この川上から流します。このきく川が紫色に染まっている間は、私がえびす様のご首尾をお祈りしていると思ってください。どうぞ約束の日までにー。」
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えびすは元気よく山路を降り、筏にのると、きく川の流れに任せ、3日のうちに、浅茅野の里につきました。里では、マツガニがえびすは殺されたものと諦め、毎日を泣き暮らしていました。元気なえびすの顔とキクヒコとの話、木の香りも新しい筏を見ると、マツガニは久しぶりに晴れ晴れしく顔を見せました。
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えびすとマツガニには、毎日、筏を操り、海に出て鯛を求めました。きく川の流れは、紫色。えびすは、ますます漁に励みました。約束の日が近づいてきました。
二人は1匹も逃すまいと、今日も荒れ狂う沖へと筏を出しました。
勢いだったえびすは、運が悪く、その日、荒波に飲まれて、浅茅野には帰って来ませんでした。
年老いたマツガニだけが、命からから筏にしがみついて帰ってきました。川上のむらさきは、えびすの死も知らずに、毎日毎日、藍染の木の実を流して、いつまでも、若いたくましい海の男の帰りを待っていました。川下の人々は、そのことを知って、きく川を紫川と呼ぶようになりました。
   (おしまい)

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この記事へのコメント

2020年06月23日 10:08
こんにちは

面白いですね。
sisi
2020年06月23日 14:10
トトパパさん、ありがとうございます。
今回は長編民話です。
だいぶかかりました。
2020年06月23日 15:20
こんにちは。
前回といい 今回といい 古くから伝わる民話には どこか切なくなるお話が
けっこうありますね。
今回は長編でしたね。
最後まで お話に引き込まれました。 
2020年06月25日 11:34
こんにちは♪
今回のお話も、せつなくなる話。
こういう話を受け継いでいきたいものです。